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【建設DXインタビューリレー Vol.9】現場が求める建設DX:人材育成からスタートする変革 – CIVIL CREATE株式会社代表 川西氏 × ランドログ(後編)

【建設DXインタビューリレー Vol.9】現場が求める建設DX:人材育成からスタートする変革 – CIVIL CREATE株式会社代表 川西敦士氏 × ランドログ(後編)

【建設DXインタビューリレー Vol.9】現場が求める建設DX:人材育成からスタートする変革 – CIVIL CREATE株式会社代表 川西敦士氏 × ランドログ(後編)

前編では、川西敦士氏の経歴とCIVIL CREATE株式会社設立の経緯、そして人材を中心とした課題解決アプローチについてお話を伺いました。後編では、建設業界におけるAI活用の現実業界構造の変革への提言技能伝承の仕組み化について、より踏み込んだ議論を展開します。川西氏が描く建設業界の未来像と、それを実現するための具体的なアプローチに注目です。

<お話を伺った方>

川西 敦士 氏
CIVIL CREATE株式会社 代表取締役CEO
大手ゼネコンにて19年間、設計・技術開発・施工管理・DX推進に従事。DX施策や技術戦略を担当する中で得た知見を強みに、2024年4月、CIVIL CREATE株式会社を立ち上げ。代表取締役CEOに就任。
(本記事は、日本の建設DX・建設IoTが目指すべき方向性を探る『建設DXインタビューリレー』の第九回です。)

AI活用の現実と課題:建設業界特有のギャップを乗り越える実践的アプローチ

―― 建設AIや生成AI協会への参加、crowd AI様との連携など、AI分野にもかなり注目されているようですね。

川西

AIの活用は、今や建設業界でも避けて通れないテーマになりつつあります。設計支援や施工計画、進捗管理、ドキュメント作成など、あらゆる業務においてAIが補助的な役割を果たせる可能性があります。

ただし、実際の現場や中小企業での導入を考えると、費用対効果の見極めは非常にシビアです。たとえば、1つのSaaSツールが月額1万円で提供されていたとしても、それを10種類・20種類と導入していけば、あっという間に月額コストが膨れ上がってしまいます。特に47万社ともいわれる建設業界全体を考えると、導入の敷居はまだまだ高いのが実情です。

そのため、私自身は、「月額5000円前後で、特定の課題にフォーカスしたAIツール」が、今の建設業界には最も現実的なのではないかと考えています。たとえば、施工写真の自動仕分けや、日報作成の自動化、現場情報の音声入力など、ピンポイントで役立つツールが求められています。

また、現在のAI開発の多くは、技術面に偏りすぎているように感じます。アルゴリズム競争や機能比較に終始してしまい、現場のユーザーにとっての「使いやすさ」や、「業務の流れに自然に溶け込むか」といった視点が後回しになっている印象があります。

日本の市場特性として、「何を使うか」よりも「誰から買うか」が重視される傾向があります。特に建設業界では、人間関係や信頼に基づいた意思決定が根強く残っており、どれだけ優れたツールでも、提供のされ方次第で導入のハードルが大きく変わってしまいます。

さらに、日本の現場では、「100%正しい答えが返ってくる」ことが前提となっている業務が多く、AIのように確率論的・補助的な回答を出すツールとは文化的なギャップがあるとも感じています。とりわけ、安全性が重視される建設現場では、このギャップが顕著です。

こうした背景を踏まえると、今の建設業界におけるAIの位置づけは、「メインではなく、業務を支える補助的な存在」として認識し、まずは身近な課題からスモールスタートで導入していくことが現実的だと考えています。

業界構造の変革と未来への提言:技能伝承の仕組み化、プラットフォーム構想、そしてゼネコンの果たすべき役割

―― i-Constructionの今後の展開や、業界全体の構造についてはどのようにお考えですか?

川西

国土交通省が推進しているi-Constructionは、担い手不足の解消や生産性の向上といった目的を掲げていますが、現場の経営者や実務者の受け止め方には大きなギャップがあると感じています。

経営層の中には、「入札で有利になるから」「点数が取れるから」という理由で導入を決めている方も少なくなく、i-Constructionが本来目指している業務改革や効率化とは目的がずれてしまっているように見受けられます。

一方で、現場で実際にそれを運用する実務者にとっては、「負担が増えるだけ」「作業が複雑になる」と感じられるケースも多く、インセンティブがなくなれば取り組みが継続されないという課題があります。

特に地方の中小建設会社では、自力で取り組むには限界がある中で、モチベーションの維持や体制整備まで求められることに難しさを感じている経営者の声もよく耳にします。

また、こうした動きの中で、大手ゼネコンの立ち位置にも課題を感じることがあります。もちろん全てではありませんが、一部では、「国からの指示を待って動く」「地方の成功事例を後追いする」といった姿勢が見られ、業界の牽引役として十分に機能していないように映ることもあります。

大手企業は資金力を活かして、デジタルツインや高度なシステム構築にも取り組める立場にありますが、そうした技術導入が本当に業界全体の進化につながっているかどうかには、疑問が残ります。時に、先進的な取り組みが他社との差別化や優位性の誇示にとどまり、結果的に、「マウントの取り合い」のような状況になってしまっている面も否めません。

本質的な変革を目指すのであれば、行政側のワークフローそのものに手を入れ、工事事務所や維持管理部門の業務プロセスも含めてデジタル化を進めていくことが必要だと考えています。現場の建設会社やゼネコンだけに負担を押し付けるのではなく、業界全体でルールと仕組みを再設計していくことが求められます。

今の建設業界では、競争の軸が曖昧になり、「何を基準に議論しているのか」「誰のための取り組みなのか」が見えにくくなっていると感じています。だからこそ、目的と現場感覚のギャップを埋め、継続可能な取り組みに昇華していくための仕組みづくりが、これからの鍵になるのではないでしょうか。

―― 建設業界を変えるための具体的なアプローチとして、他産業から学ぶことはありますか?

川西

私は、建設業界の変革には、他産業の成功事例から学ぶことが重要だと考えています。他の業界ではすでにさまざまなビジネスモデルが試され、一定の成熟を迎えているものが多くあります。それに比べると、建設業界はまだ過去の慣習や構造に縛られ、同じようなアプローチを繰り返している面もあるのではないでしょうか。

ただ、それは裏を返せば、「まだまだ伸びしろがある」ということでもあります。他産業でうまくいっているモデルを取り入れ、少し視点を変えるだけでも、新たな可能性が開けると感じています。

たとえば、スポットワークの活用もその一つです。他業界ではすでに、「働きながら相性を見極める」「仕事体験を通じて採用につなげる」といった仕組みが確立されていますが、建設業界ではまだ一般的とは言えません。これを応用すれば、若手人材との新しい接点を作る手段になり得ます。

また、SaaSアプリケーションの導入においても、1社ずつ個別に営業・導入していくやり方には限界があります。今後は、複数のツールを自由に組み合わせて使える選択型のプラットフォームが主流になっていくでしょう。

たとえば、100種類の建設支援アプリの中から、現場ごとのニーズに応じて10個を選び、月額で柔軟に利用できるといったモデルが、建設業界においても求められるようになると考えています。

このようなサービスを広げていくためには、既存の営業チャネルや流通網を活かすのが効果的です。建設業界では、機械レンタル会社やリース会社が強力なネットワークを持っています。彼らと連携し、代理店的な立場でサービスを広げていくことで、現場との距離を縮め、導入のハードルを下げられると考えています。

私たちは、技術そのものを競うのではなく、「いかに現場で使ってもらえるか」「いかに業界全体が変わっていけるか」という視点から、こうした仕組みづくりを進めていきたいと思っています。

(ランドログ) 我々も、そのような考え方に基づき、プラットフォームの構築を進めています。現場ごとに必要なデータだけを選択して利用できるような、柔軟な仕組みを構築したいと考えています。建設業界は、もともと利益率がそれほど高くない現場が多い中で、コスト意識は非常に重要です。

―― 技能伝承については、どのような課題があり、どう解決していくべきでしょうか?

川西

建設業において、技能伝承は長年にわたって大きな課題となっています。その要因の一つは、技能を客観的に評価するための共通基準が存在しないことです。製造業には、「一級技能士」や「特級技能士」といった制度が整っていますが、建設業ではそのような評価の軸が曖昧です。

たとえば、ブロック積み一つをとっても、「うまい」「下手」を誰がどう判断するのか。見た目やスピード、安全性など、要素はいくつかあっても、体系化された基準はほとんど存在していません。これでは、技能の伝承を「感覚」や「経験則」に頼るしかなく、属人化を避けられません。

さらに、建設現場特有の「段取り八分」という考え方に象徴されるように、本当に大切なノウハウは、作業そのものではなく"準備"や"判断"のプロセスにあります。こうした暗黙知を言語化して伝えるのは非常に難しく、職人自身がその知識を言葉にできないことも多いため、伝承の壁となっています。

このような課題に対して、参考になるのが製造業での成功事例です。たとえば、HILLTOP株式会社は、「一品生産」を軸に事業を展開しながら、特級技能者の育成とその技能を形式知として社内に蓄積する仕組みを確立しています。これは、単に個人の能力に依存するのではなく、「仕組みとして技能を育て、伝える」ことを前提に企業全体が動いているからこそ実現できているのです。

建設業界においても、こうした考え方を取り入れることは十分に可能です。現場での映像記録や作業工程の可視化、AIによる動作解析など、近年は技術的な支援手段も整ってきています。重要なのは、ツールの導入そのものではなく、それをどう運用し、文化として根付かせていくか。

技能伝承を支える"仕組み"を持つ企業が、今後の建設業界では競争優位を築いていくことになるのではないかと考えています。

―― 最後に、建設業界の未来に向けてメッセージをお願いします。

川西

建設業界の未来を考えるうえで、どれだけデジタル技術が進化しても、やはり中心にあるのは「人」だと思います。技術やツールは、あくまで現場のものづくりを支える手段であり、それをどう活かすかは人次第です。だからこそ、現場で働く人々がものづくりに集中できる環境を整え、その価値を最大化することが、これからの建設業にとって何よりも重要です。

また、協力会社を単なる業務委託先ではなく、「共に目標を達成するパートナー」として捉える視点も欠かせません。現場の技術やノウハウは、そうしたパートナーとの信頼関係の中で育まれるものです。対等な関係性を築き、共に成長していけるような仕組みづくりが、業界全体の底上げにつながっていくはずです。

業界の未来は、変革を「外」から待つのではなく、「中」から起こしていくしかありません。その第一歩として、既存の枠にとらわれず、さまざまな人材とつながり、学び合いながら、次の世代につながる建設のあり方を共につくっていけたらと思います。

(ランドログ) 本日は、多岐にわたる貴重なお話をありがとうございました。大変参考になりました。

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